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序章

 少女と呼ぶには大人びた端正な風貌の彼女が連れ込まれた先は、古びた宿屋の二階。
 宿屋の主人と並ぶ男は、自らを「スカウト」と名乗った。中背で細身な男だ。顔は、人間の中では悪くはなく、茶色く不ぞろいに切られた髪の間から、チョコレート色の瞳が彼女を見ている。服は体に添うようなくたびれた布、腰にいくつかの工具を皮で留め、編み上げたショートブーツはまだ新しいのか、不自然な光沢を見せる。
 名前は・・・名前はなんだっただろうか。久々に喋った言葉は、不自然ではなかっただろうか・・・アカネはぼんやりと、古びれた宿の壁にかかる燭台の蝋燭のオレンジの火を眺め、そう考えていた。
 宿屋の部屋の中では、上等な部類に入るのかもしれない。お世辞にも広いとはいえない部屋の半分はベッドが占めていた。
 アカネは急いでいた。急ぐというより、焦り。
「お金は、沢山もらえますか?」
 言葉が咽元を通る感覚をアカネは噛みしめた。
「あぁ、働き次第だけどな」
 スカウトの男は投げやりに言った。
  「あまり時間がないんです・・・」
 真っ白い手を彼女はスカウトへと伸ばした。彼はなんて名前だっただろうか・・・アカネはもう一度、頭の中で考えた。真っ先にアカネの頭に浮かんだのは、長い事自分の庇護してくれたフォルクーカンの顔。今はどうしているのか、アカネはぼんやりと思い出す。
 アカネは灰色のフードがついたローブを着込み、その深く被ったフードの下から注意深く周囲を観察した。その服の隙間から伺える彼女の真っ白い肌と、整った口元をスカウトが逆に観察して・・・・・・いや、値踏みしていると言う方が正しいか。
「じゃ、さっそくやってもらおうか」
 スカウトは言って男性の手とは思えないほど手入れされた長い指を伸ばし、彼女の顔を深くおおったフードを毟るように剥ぐ。
 アカネは相手が息を飲む気配を感じ取り、体を竦ませた。次にはどんな侮蔑の言葉が投げかけられるのか。言葉だけならば危害はない。アカネの体は刻まれた古い痛みを反芻した。

 

 暫くスカウトは彼女の顔を眺め、不自然な・・・この世界には稀有な色の瞳と、若さに不自然な髪の色を驚くほど長時間干渉した。
「おまえ、変な感染病は持ってないだろうな?」
 アカネは飛び上がるように驚き、首を左右に振る。過去フォルクーカンに病気だと言われたことはなかった。ただ身体の中の色素が、突然変異で無くなってしまった、と教えられた。不思議なことにアカネは自分の髪の色と瞳の色が「こんな色」になってしまった記憶が無い。全てが曖昧な記憶に残る自分の姿は、もっと暗い髪と瞳の色であった。
   きっと、フォルクーカンの言葉に間違いないとアカネは薄靄のかかった記憶の奥深い発掘を諦めた。
 何度手探りで進もうと試みても、過去は霧の中に有り決してその霧は晴れることはなかった。長い事交わりのない外の世界では、自分の姿は奇異にしか映らないのだということを再び認識し、耳鳴りがするほど強くアカネは首を振った。
 既にアカネが空想に耽っていた間に、男は彼女の外観に対して興味を削がれ時間の無駄だと言いたげに一度開きかけた口を、何か言いたげな仕草で閉じた。
「見た目について言われるのは不愉快です」
 アカネの中で外観は様々な意味を含んでいる、それを時間の無駄だと言わんばかりの態度を取られ、彼女は憤慨していた。表に出さずにはいられない心の中の苛立ち。
「そうだな悪かった」
 左手で投げやりな仕草を見せ、男はアカネの肩へと手を伸ばす。
「何色だって問題ない、その通りだ」
 スカウトの態度はアカネを現実に引き戻すには十分な効果を得た。
 ハッとしてが顔を上げるアカネに「じゃ時間がないなら、さっさと取りかかってくれ。俺もどうでもいいことに時間を取られる気は無い」彼はアカネのそんな外観には興味を無くしたように言い放つ。
「と・・・取り掛かる、って?」
 鸚鵡返しにアカネは聞き返す。
 スカウトはチラリと侮蔑したような色の視線をベッドへと向け、言った。
「金が欲しいんだろ?」
 アカネの手を彼は引き、下半身へ導く。
「ぃ!?」
 アカネは驚いて一歩後退し、真っ赤な瞳を見開く。彼女の手の上から、彼の手が力強く、彼の股間の硬い存在を押し付けている。アカネにとって初めて触る股間の物は、あまりにも固く、熱く、異次元の産物だった。
 真っ赤に頬を染めた真っ赤な瞳が凝視した。
 部屋の唯一の入り口には、既に鍵が掛けられている。
 一歩足を踏み入れたとき、外から大きな蝶番の鍵が下ろされる音がした。
 アカネの手の中の男性は熱い。
 薄い床板から、一階の様子がうかがえる。ガチャガチャとグラスがぶつかる音、ザワザワと客達が話す声。それがまるで遠くの世界の出来事のように、アカネの耳の奥で鳴り響く。
「あの・・・私・・・どういうことです、私はどうするってことですか」
 カチカチとアカネの歯が鳴った。
 それは隔離された温室で育った彼女には、あまりにも突然の出来事だ。そんなアカネの姿に、興味が反れたかのようにスカウトは彼女の手を乱暴に離してベッドへと身を投げた。
 その整った横顔は冷淡だった。
「金を取るって事はだ、その金を貰う方法を、どうしたらいいの?って相手に聞いてちゃ、金にはならねぇよな? どうしたら金がもらえるのか、考えてみろよ。相手に教えてくださいってのなら、授業料が必要だ。」  投げやりに男は言う。
「要は客が喜べばいい、そういうことだ」
 アカネは男の返事に意を決して大きく頷いた。アカネの姿に満足したのか、スカウトは饒舌になった。
「客を喜ばせろ。分かるな?」
「はい」
 返事をしてから改めて、アカネの言葉に疑問が浮かぶ。
 客・・・・・? 男は自分を「客」だと言っているが、アカネには何かが引っかかった。  「いい返事だ。名前を名乗って服を脱げ。色気を忘れるな」
「は、はい。アカネと申します・・・お願いします」
 僅かに、アカネは灰色のローブの下の膝を閉じた。
 冷たくなった両足の温度が互いに交わる。
 本の中だけの知識であったが、男女がこのような営みを金銭のやり取りと共に行うというのは、聞いたことがある。家の装飾品を金に換えようと持ち出したが、家の物に手をつけずとも金が得られるのであれば・・・それはそれで好都合だ。
   愛の無い行為は、罪であるとアカネの本能が訴えた。けれどもう、道徳などどちらでもいい。そうしてアカネは、彼女の信仰する神が定めた禁域へと足を踏み入れることになる。
「早く脱げ」
 スカウトの言葉にアカネはハッと身を硬めた。
「言われなくても、今から脱ぎます」
 恐る恐る灰色のフードの結び目を外し、ぎこちない仕草で取り去る。恥ずかしくて視線を落とすと、鎖骨で切りそろえられた髪の毛までが羞恥に赤く染まった。皮膚の赤味を白い髪の毛が透明なフィルターで覆う。
「私こんなに色が白かったかしら」
「ああ・・・女神エリュテレスのように白くて美しい肌だな」
 投げやりな賛辞を男は言った。覚悟を決めたようにアカネはローブのボタンを外す。服は隠しボタンになっていて、比翼仕立ての生地には繊細な細工が施されている。上から被っていた華美な装飾の飾り前掛けを外す時、真っ白いうなじがむき出しになった。
「発光してるみたいな肌だ」
 呟くように男の手が伸び、アカネの細い銀糸のような繊細な髪の毛に触れる。ローブのボタンが外れる。先ほど感じた恐れは消え去って、興味がアカネの体に流れ込んできていた。
「喜ぶのが俺だけとは限らない」
 ゆっくりと着衣より肌の露出が増えていくアカネに満足げに、スカウトは言った。アカネはその言葉を聞きながら、灰色のローブを脱ぎ捨てた。シルクの布はパサリと小さく床に落ちる。発光するような、白くなめらかな肌が蝋燭の橙色の光に照らし出された。
 ゴクリ。
「な、なにか音が」
 どこかで唾を飲み込む音がしてアカネはハッと顔を上げて、部屋を見回した。聞き間違いではない、近くで、誰かが息を殺して見ている。察する数は多い。
「気のせいだ」
 次は壁をコツコツと叩く音。
 意識を集中すれば、無数の気配が壁の向こう側をひしめていている。
「気のせいじゃないです!」
 ヒステリックにアカネは叫び、再びおびえた色を瞳に浮かべる。
 意図的にアカネを怯えさせるために、隠れているやつらが気配をむき出しにして楽しんでいる。
「困った客だ・・・・・」
「これは、なに」
「知りたいか?」
 むしろ「知らなかったのか」と小馬鹿にした表情で、男は告げた。
  「壁に隠し穴だ。そこでお前に金を出す客がお前を見てる。客は、肉体的・宗教的な理由で女を直接抱けない奴から、視姦が趣味の奴まで様々だ。分かるな?」
 アカネはふっくらした唇を口をキュッと結び、首を縦に振った。
「沢山金を手に入れるには、穴から覗いてるやつらを喜ばせてやればいい。まぁ単純な事だ」
 スカウトは僅かにアカネの眉が潜められたのを見逃さなかった。
「ここでお前が尻尾を巻いて逃げるというなら、俺は止めはしない」
 負け犬、との含みにスカウトは力を込めた。
   ちょっと頭で考えれば、他にいくらでも稼ぐ方法がある。逃げ出すタイミングを作らず、逃げ出したい気持ちを塞ぐことも男の仕事の内容の一部だった。
「なんなら俺がうまーく客が喜ぶように手伝ってやってもいい。ま、授業料を俺に払わなくて済むよう、せいぜい自分の頭で考えて頑張るんだな」
「自分でやります」
 アカネは気丈に言い放つ。
 顔を上げ、白くやわらかな膨らみを包んでいた布を勢いに任せて手で掴んだ。
「アホか!待て」
スカウトが鋭い言葉だけでアカネの動きを制した。彼はベッドの上で上半身だけを起こし、厳しい口調と視線でアカネの行動を易々と制限した。
「分かってねぇな、楽しませるってのはただ脱げばいいってモンじゃねぇぞ」
 不機嫌に語る姿に、アカネの瞳は当惑の色を隠しきれない。彼女はもじもじと所在なげに手に掴んだ服の布を握り込んだ。
「でも」
 僅かに紡いだ反論は、スカウトの視線によって終止符を打たれる。
 壁の向こうでは、アカネの動きをいまかいまかと待ちつづける、複数の人間の息遣いが不気味なほど大きく聞こえてくる。彼らの気配は、アカネが察するに一人や二人ではない。じっとりと舐るような視線を体のあちこち・・・胸や尻に感じ、視線に晒される場所は無意識に恥じらい赤く染まる。
アカネは再び、腰を引き膝をすり合わせた。先ほどより湿度が増した足の付け根の感触。
壁の奥で人々が囁きあう声が、アカネの耳にも聞こえる。
「あの」
「黙れ、質問するならそれ相応の対価を払ってからだ。下着の上から乳首を触るんだ」
 乳首は白い布からでも押し上げ尖りを見せる。その癖、皮膚と同じく色素の薄い乳首は、ツンとした出っ張りがなければ、正確な場所さえ見出せない。
 ごくごく標準的な大きさの胸を突き出し、白い指と綺麗にカットされた爪が乳輪を探るようにくるくると円を描く。
「こ・・・こうですか?」
 寿順な少女の動き。よくよく目を凝らせば、指で円を描く部分は他と比較し、僅かだが布越しに桃色の芽が色付く。突き出した柔らかい丘の上の芽に、壁越しに充血した男達の視線が集まった。
 いよいよ始まる、その期待と熱気は壁越しにもはっきりと意思を持ってアカネに伝わってくる。
「客にしっかり見せてやれ」
 無碍な男の声。
    壁の向こう側で、見えない乳首の色を凝視する男達の視線がアカネへと絡みつく。尖った乳首は布越しにもはっきりと突き出し、下方へと影を作る。乳首は見えているのに、乳首の色が見えない苛立ちからか、鼻息が部屋まで聞こえてくる。
「乳首はどこだ」
 彼女は腰ごと胸を突き出し、自らのぷっくりとふくらみを持ち始めた乳輪と乳首を視界に入れた。指は、尖った勃起を指先でツツと示す。
「こ、ここ・・・・です」
 自らの指で、乳首の位置を知らせる姿にアカネの呼吸は早まった。息苦しい中、胸に空気を吸い込む度に指が柔らかい胸に押しつけられる。
「私の指の場所です」
 頭を下げ、消え入りそうな声は、いつまで体勢を維持すればいいのか戸惑いを含んだ。壁の向こうで「もっとはっきり言え!」と野次馬ならぬ覗き馬が騒ぎ、アカネは怒気を組んだ言葉に怯えた。
 依頼主の意図を理解し、男が促す。
「乳首を指でつまんで、説明しろ。クライアントが満足するように。言う時は必ず自分の名前を頭につけるんだ」
 アカネは怯えたように腰を引く。
 無理もない。複数の視線。恥ずかしい行為を人前に曝す羞恥心。
「は・・・・・はぃ」
 潤んだ瞳とは逆に、じんわりと下半身には蜜が滲んできた。液体は、腰を引く動きに合わせて閉じた花弁から溢れ白い布へとトロリと垂れてくる。
 自分の淫らな姿と、それを嬲るような目で見る人々を想像し、アカネは視線を彷徨わせる。体は興奮して付きだした胸の突起に強く触れたがっている。
「アカネの」
 想像以上に自分の名を語り、次に行動を述べる行為は背徳的だ。
「アカネの・・・・」
 きゅっと白く細い指が、呼吸するようにドクドクと腫れた乳首を、人差し指と親指で摘む。先ほどから触れられる事を望んで小さく立ち上がった乳首を両側から挟むと、ピリッと痺れるような刺激がアカネの全身を貫く。
「んッ」
 慌てて唇を噛みしめ、体を丸める。ヒクヒクと全身が波打つ。緊張した指先は想像以上の強さで彼女の乳首を摘んでしまった。両脇をつままれ、もっとも先端の部分が刺激を欲しがる。ぶるぶると快感が背筋を駆け抜ける。乳首は淫らな性感帯となっていた。
「っ・・・・っ」
 つまんだ乳首の押し出すようにひねり出された先端がビクビク震える。ここに指の先を奥までねじ込みたい・・・・・アカネの妄想が加速した。
「見えねえぞ!!」
「おい、娘! ちゃんと言え!」
 飛んだ野次にアカネは顔を上げた。彼女開いた唇から覗くの恍惚とした表情を、男達は食い入るように見入った。
「す、すみません」
 アカネは両手で胸の重さを測るように、柔らかく育ったふくらみを持ち上げ、再び胸を突き出した。
「アカネの・・・・ここが胸で」
 震える指が、今度は強く摘んでしまわないように注意しつつ、ツンと尖った先をつまんだ。先端に触れる程、大きく脳裏でフラッシュが焚かれ、アカネは羞恥と快感から顔を真っ赤に染めた。
 瞳が潤む。観客は納得してない。
「ここが・・・・アカネの乳首です」
 布越しに確かに赤い血流を集めた乳首が浮き上がる。次第に色を増し、主張し始めた胸を血走った男達の視線が舐めるように愛撫する。また一筋、粘液が内側に止まりきれず、溢れ出す感触にアカネは体を竦めた。
 男が身振りで「サービスしろ」と喋る仕草をした。
「アカネの・・・・白い乳首です」
 アカネの視線の先で、男の片眉が上がる。
 観衆に分かるように胸を張った。熱い視線が集まる。胸に、起った乳首に添えられた指に。次第にアカネの体が熱くなった。
  「あぁ、なんか、出てき・・・・ます」
 すかさず男が「アカネ」と無音で口を開く。何を言わせようとしているのか、アカネはなんとか察する。
「あ、アカネ、何かが出て・・・・熱いです」
 消え入りそうなか細い声が告げた。恥じらいを残す響きの甘い言葉は、アカネ自身を一層強く責め立てた。掴んでいた指が、無意識に強弱をつけ尖った乳首を前後に揉み出す。壁越しのはぁはぁという息遣い。様々な人が彼女の動きを凝視している。アカネの脳裏を「きもちいい」という単語が駆け巡る。
 言うべきか、言えば気持ちいいはずだ・・・・アカネの頭はより淫猥な答えを導く。観客も満足するに違いない。
「アカネ、きもちいい」
   乳首をこねる指が止まらなくなり、両膝を擦り合わせた時、アカネに向け醒めた声がかかった。
  「合格だ。俺のズボンを脱がせろ」

 アカネは張り詰めた股間から、視線を引き剥がした。先ほど無理やり触らされた固い感触が手の平と脳裏に蘇る。その感触を振り切り、彼の股間に手を伸ばした。
「口と手を使って相手を喜ばせろ」
 男は慈悲のない言葉でアカネに命令を下す。
「・・・はい」
 神に見捨てられるかもしれない・・・アカネはようやくその事を考えた。一度の過ちを、潔癖と名高い慈悲の女神・エリュテレスは許さないに違いない。己の信仰に背くリスク。頭の様々な事柄が、断片的に浮かび上がる。見たことのない風景、見たことのない女神エリュテレスの姿、近かったようで遠い記憶。フォルクーカンの姿。
「わ、私はいったい何をしようと」
 我に返るかのようにアカネは顔を上げてつぶやいた。瞳には失われた知性を僅かながら取り戻した煌めきが瞬く。しかし、それは一瞬だった。
  「ナニするんだよ、早くしろっての」
 溜息混じりに背中を押す低い声に、あっさりと、アカネの心は誘惑に負けた。金銭の誘惑ではなく、甘美な知らない世界の手招き。無知で愚かで、孤独な少女に成り果てたアカネには選択する道は見えなかった。
「触ります」
 アカネの血のような瞳の色が、輝く。彼女は、色素の薄い舌を出してゆっくりと自らのやわらかな唇と歯列を舐め、男のズボンへと手をかけた。腰で結ばれた皮紐を解き、膝まで引き下ろす。大腿部には皮のベルトで固定された小型ナイフが挟まれていた。
「変な気は起こすなよ、俺はこれでも一応、プロだ」
 スカウトは「一応」に力を込める。
「殺したら、お金がもらえないじゃない。それに人は殺せないわ」
 こんな台詞を口にしていることの可笑しさに、アカネは笑顔を見せた。
   身を守る剣すら、手にした事がなかった穏やかな生活をアカネは振り返る。記憶は薄れてはいたが、なに不自由ない日々だったとアカネは信じていた。愛で生きる糧を与えてくれたフォルクーカンは、今どうしているのだろうか・・・・・アカネの曖昧で薄れた記憶の中に、柔らかな緑色の瞳と厳しい口元が脳裏に浮かぶ。
  「可愛い顔で口は達者だ、だがそこも悪くないな」
「心にも無いお世辞ね」
 可愛いとの形容詞にアカネは刺を返す。己の赤い瞳が、他者からどう映るのか、身をもって良く知っていた。好奇と畏怖と侮蔑の視線。体をまとわりつく、様々な人間の興味本位な視線に翻弄される感覚。
  ゴホンッ、大きな咳払いがした。
催促の合図だろうか。アカネはその合図に従って、男の下着を下ろしつつ、はじめて目にした男性のそそり立つ性器に目を釘付けにし、我に返ってゆっくり白い手を股間の怒張へと這わせた。
こんなに大きく膨らむ物なのか・・・・アカネは改めて、書物の上で知った裸体図と照らし合わせ、目の前の膨張した物体に引き込まれる。服の上から触った予想の数倍は、大きく、生々しく、固い。
「これを口に?」
 戸惑う言葉に男達は喜ぶ。
 たどたどしい指の添えられ方がかえって新鮮だった。近い腕で彼女の下着の上から尻をなで回す。マシュマロのような柔らかさに手が沈み込む。パッと見、肉付きが良いとはお世辞にも言えない体に見えたが、この柔らかさ。男はうっとりと瞳を閉じて、尻をこね回し、下着を尻の割れ目に食い込ませた。目で客を喜ばせる方法を男は熟知している。
「ぁ!?」
 驚きの混じった声で、アカネは飛び起きた。
「次は舌を出して舐めろ、ケツはよく見えるように上げてろよ」
 言われるままに、アカネは男の一物を引っ張り出し、色素に欠けた薄いピンクの唇を寄せた。続けて白い舌で根元をゆっくりと舐め上げた。袋まで丁寧に舌を這わせた。だが何か不吉な気がして、先の方を見ることも舌を這わす事も、手で触れることすら躊躇われた。
 先端から何かが漏れ出して、蝋燭の光りを反射している。恐る恐る、アカネは先端の分泌物を眺めた。
「おい、全部思ったことは口に出せ。言葉でも楽しませろ」
 彼女の視線に気付いた男は素早く命令を下す。その間もヒクヒクと動く肉棒の窪みに、不可解な液体が雫を作った。
「先端から・・・・何か液体が出てます」
「詳しく言え」
 詳しく!? アカネは必死で覚えた言葉を脳から引きずり出す。そもそも、フォルクーカンが家を去るまで、人と話した経験が皆無に近い。使い慣れない言葉、知らない相手、初めての体験、全てが彼女に戸惑いの鞭を叩き込む。
「ぺ・・・・」
「ぺ?」
「ペニスの先から・・・・・」
 指先が鈍い光りを反射する液体に触れた。途端、するりと皮膚と皮膚が滑る。
 アカネは驚き慌てて指を離す。長く長く粘液の糸が引かれた。
「す、すごく透明な粘液が出てます」
 男が不機嫌な顔で起き上がる。
「おい、オマエなぁ!それのどこが聞いてて興奮する!?」
 怒鳴られなれてないアカネは体を竦める。その瞬間にも、下半身からトロトロ彼の先端から出ているような粘液が溢れ出している。壁の男達は、彼女の閉じた太腿の奥で、下着が透け、隠した秘部の形が次第に露わになっている事に気付き喜ぶ。また少し、布に広がった粘液の染みは、彼女の尻の割れ目へとピタリと張り付き、皮膚の質感を剥き出しにした。
「舐めます、次は、もっとうまくいいます」
 ゴクッと息を飲み込み、片手で男根を握り、アカネの唇は先端を飲み込んだ。次第に深くまで咥え込む。苦味が口の中全体に広がり、唾液と粘液が混ざり合う感触に興奮する。ゆっくりと唇を窄めたまま、上下に摩擦し、次第に速度を上げる。
  「ひぅっ!?」
 がりっとアカネの口の中で歯に皮が引っかかる。
「ぐぉっ!歯を立てんな!!」
再びアカネは跳ね、目の前の男が咽の奥まで咥え込んだアカネを引き剥がす。振り返った彼女の目には、壁の石畳が外され、そこから彼女の突き上げた尻を無遠慮になで回している腕が見える。太い剛毛を生やした腕が、壁からニョキッと生えていた。
「なっ・・・これはなに!?」
立ち上がる彼女の腰を彼が強く掴み、腕が生えている壁へと引きずり込まれる。力に逆らえず、アカネの白い柔らかな尻はザラザラとした壁の感触を肌で受け止める。
「これはなに!」
 白い髪の毛が跳ねる。柔らかな尻は壁に押しつぶされつぶれた。
スカウトの腕は見かけの優男風な姿とは対照的に、筋肉質だがスラリと細身で力強い。
 ゴトリ、煉瓦造りの壁がさらに一つ外れ、別の腕・・・今度は細い皺交じりの腕が、彼女を今動いたばかりの壁に貼り付けるように強引に引っ張り上げた。
「スポンサーだ、我慢しろ」
 膝立ちで背を壁に押し付けられた。アカネの股の間の煉瓦が数枚外れた。次々と壁の向こう側の腕がアカネを狙って攻撃を開始した。
「っ・・・・何の液体ですか・・・ひぁ!?」
 食い込み塗れて透ける下着の上から、体温より明らかに低い液体の感触。
 混乱するアカネの身体を数本の腕が縦横無尽に撫で回す。時には柔らかく、時には執拗に。何本の、何人の腕が壁越しにアカネに触れているのかも彼女には知るよしもない。そして初めて与えられる、今まで味わった事の無い感触に彼女の身体は跳ねた。
 それを快感と受け取り腕は喜ぶように、下着の上から秘部を二人の指が形を味わうように撫でた。指には、蜂蜜色の液体がたっぷり塗られている。その蜂蜜色の液体を塗り込むように、指はアカネの下の唇の上を感触と穴の場所を確認するように・・・そして彼女の血が集結した場所を避けるように蠢く。
 既に愛液なのか、後ろの男達が持ち出した液体なのかすら分からないほど、彼女の股間はグチャグチャに濡らされていた。下着は濡れ白い体毛、布を突き出すクリトリス、柔らかく閉じられた花弁、その先の肛門までシースルーで丸見えだ。
「おぉ、よく濡れてるみたいだな」
 耳慣れない声はアカネに向けられていた。
 アカネの股間を撫でつつ、蜜穴を探し当て、液体を塗りこむ腕の主だ。声は下着の股の右側の隙間から、びっしょり張り付いた布を押しのけ素肌に入り込んできた。愛液が下着の塞きを越え染み出してきた。
 もう一本、別の指がさらに股間の割れ目に沿って縦に往復を始めた。アカネの一番ムズムズする充血した部分を避けて。
「あぁ」
 驚くほど滑りを帯びた股間に、指の往復速度が速まる。彼女は無意識に腰を揺らしていた。腰をゆっくりと前後に振るアカネの姿を射抜くように、男は股間をそそり立たせて見ている。
「みっ、見ないでぇ!!」
真っ赤に染まった前身で拒絶の意思を表現して、アカネは首を振った。その拍子に、胸をゆるりと揉んでいた指が、アカネの乳首を抓った。
「ぁ!!」
 ビクリ!身体が跳ねて、壁に柔らかな尻が押し付けられ、形がいびつに広がる。股間の下の壁から這い出した腕達が、その尻を追いかけた。アカネが尻を振るたび、強く押し当てられた指が彼女の感じる部分を刺激する。
 アカネは冷たい壁に尻を押し当てたまま・・・・薄く瞳を閉じた。ビリビリと駆け抜けるような快感が、下腹部を覆い、耳からは聞いたことの無いヌチャヌチャ粘液が空気に混ざる音が響いている。
 この心地よさはなんだろう、排泄する部分だろうか。熱い。血液が集まっているような、神経が集まっていくような・・・アカネは再びユラユラと腰を振った。瞳を閉じたせいで、性感へと神経が研ぎ澄まされた。胸をもてあそぶ指が、ふたたび乳首の回りをクルクルと撫でた。
 ああ・・・・真ん中を触って。
 アカネは指が核心部分に触れるよう、腰の位置を調節する。すると、その指はするりと彼女の望む場所を離れて、別の場所を突付くのだ。そこじゃないのに・・・もっと上、今触っているように、肉を押して指で擦って欲しい・・・アカネの唇からため息が漏れ、下の唇から愛液の擦れる音がクチュクチュ鳴った。
「どうだ、もっと触って欲しい場所があるんじゃないか?」
 壁の奥の客の意思を汲み取って、男が言葉でアカネを責めた。アカネはその声を聞きながらも、腰を揺らめかしている。もう触れて欲しい、我慢できないという姿を全身で体現している。
「はぁ・・・はぁ・・・なんか」   瞳を閉じたまま、睫をフルフルと震わせている。
「なんだ?」
「なんか・・・変なんです・・・熱い・・・みんなの手がある場所じゃなくて・・・あっ」
  再び胸をこねくり回していた掌が乳首をクリクリと刺激していた。
「どこだ?」
「お腹の下の方で・・・今触ってるところよりもっと上・・・」
  眉根を寄せて上ずった声が早口に告げる。
「もうちょっと上・・・もうちょっと・・・そこじゃなくて・・・上を」
  腰を後ろの壁へと引いて、腕を導く。
  しかし股間を触る男の指は、一番肝心な場所へは触れない。アカネはじれたように、哀願するように再び「もう少し上が変なの」と途切れ途切れに紡いだ。
  それでも尚、男の指は、その周囲を執拗に這い回るばかりで、彼女のクリトリスはさんざんじらされて膨れ上がり、下着の布地の上からでも突起の場所が容易に確認できる程の存在を主張していた。腰を引くたび、布生地が擦れて甘い波をもたらす。
「触って・・・上・・・ち、乳首も・・・」
  自分で触れようとした手首を掴まれ、アカネは唇を振るわせた。唾液が唇から溢れ出しそうだ。ハァハァと息を荒げた。頃合だ。彼は太ももの内側のナイフを取り出し、アカネの下着に・・・股間に刃を当てた。アカネの身体が再び跳ね、腰が上へとずり上がる。
「おい、動くな」
 男の指がクリトリスの辺りの布をつまむ。その生地が強く擦れる感触に、ジンッと甘く蕩けるような波がアカネを襲う。体をフルッと震わせて、アカネの潤んだ瞳が、ナイフを持つ彼の動きを見つめた。
 ・・・やりにくくてしょうがねぇな。噛みやがるし。男はアカネの視線の煩わしさを振り払うように、下着に縦に切り込みを入れる。ヌルヌルでどうしようもない布が糸を引いて縦に裂かれ、彼女の下着は彼女の秘部を隠すためのものではなく、彼女の秘部へと視線を集中させるための布穴へと変わった。下着の穴を待っていたとばかりに、二人の男の指が彼女の持つ柔らかい肉壷とクリトリスへと群がる。強く下着の破られた割れ目から突き出し顔を覗かせた豆を男のゴツゴツとした指が擦り上げ、同時に膣の中にも指が入れられぐるりとかき混ぜられた。
「すげぇ締る!!」
 アカネの花弁を割り開き、蜜壷の中、壁を突き上げていた男が興奮して叫ぶ。
「ひぁぁん・・・・い、一番きもちいい場所も、もっとさわって!」
 要求され男達の指がぷっくりと膨れ尖った肉芽へと群がる。一人がひっぱりツルリと向き上げると、別の一人が普段人目に触れない充血しきった芽を押しつぶした。
「あっ!ああっっ!!」
 アカネのつま先までピンと力が入った。彼女の唇にも指が入れられる。そんな痴態に満足し指は押し付けたまま振動を始めた。
「ぃぁ!!」
「指も舐めてやれ」
 素直に応じモゴモゴピチャピチャと喘ぎに混じって卑猥な音が部屋中に響く。
「ふぁ・・・は・・・あぁ・・・気持ちイぃ・・・!」
 じらされた末にクリトリスを押し潰すように撫で上げ、刺激され、アカネの身体は満足そうに何度も痙攣した。軽くイってるのか。唇を責める指も、止まることなく出し入れを繰り返す。
 彼女の動きに合わせるように、腰が振られ、腰が引き上げられるたび、股から生えた男の腕の先の指が彼女の身体からヌルリと光を反射する姿をあらわにし、そして彼女が腰を戻すその動きにあわせてゆっくりと彼女の体の中に再び指が埋もれてゆく。
 クリトリスを触る腕は、彼女の腰を通って腹から回され、上下する身体に合わせてクリクリと指を振動させて彼女の突起を押しつぶしている。
 「はぁ・・・・はぁ・・・あぁ・・・いい、キモチいいっっっ!!」
 腰に回された腕で腰の動きを制約されている事をもどかしがるように、卑猥に振られた腰は動きを加速していく。
「そろそろ入れますか?」
 壁の後ろの客に、男は聞いた。
 二本の指がヌラヌラにテカリ、アカネの身体を抽送しかき回す。足首を掴み、頭上へとくの字に折って持ち上げ、膝を彼女の下半身へと入れ込んで体を持ち上げる。「すごい締め付けだ!」と興奮する男の指はズボズボと激しさを増す。
 アカネの身体は指がぎりぎりまで引き抜かれるとそれを阻止するかのようにグイグイと締め付け抜くなと抗議し、そんな姿も男達を喜ばせた。
 何人かが入れ替わり、彼女の内壁と締め付けを楽しんだ後、そろそろ入れろと催促の声が高まる。
「じゃ、失礼して」  最後まで未練がましく彼女を責めていた指がスポッと抜かれ、もっと太いものがアカネへと押し入ってきた。
「っ・・・・あぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

アカネはいくつもの視線に視姦されていた。1人を省き、全員が同じ目だけを繰りぬいた被り物をして、この狭い部屋で密集している。
 か、鍵をかけていた筈なのに・・・・アカネはうろたえ、正気を失いそうな頭で考え、鍵をかけたのは彼女を安心するための罠だったと気付く。けれど中に入ってきても、彼女に悪戯をし、自慰するだけで誰一人彼女に挿入するそぶりは見せない。
 こんなにいっぱい入れる物があるのに・・・・ぼんやりとアカネの瞳は規律した勃起を追った。どれももの欲しそうに彼女に先端が向けられている。
「ぃっ、ひっ」
   多くは宗教的理由で女性と性交が出来ない者達だ。
 ただ一人、アカネとまぐわっている男は、彼女と性交をするというだけでなく、男達が興奮し女性挿入しないよう間違いを犯した場合は仲介に入るのも主な仕事だった。それほどに宗教的理由での禁欲というのは、彼らにとって重要な事柄だ。
「結合部が良く見えるようにな」
 被り物の男が言った。
 股間からそそり立つ男根を剥き出しにして。
 言われた方の男がアカネに身体を跨いでしゃがむように指示する。しゃがんだ先には、先ほどまでアカネの身体に埋もれ、精を放ったペニスがあり、先ほど中に出された精液が処女膜を突き破られた時の血に混ざり滴り落ちる。
「おぉ、大事な精が出てきたぞ。破瓜の血も」
 しゃがんだ体勢のまま、アカネはギュッと体を強張らせる。ゾクゾクする快感と共に、桃色の精液が股間からドロリと溢れ出す。
「出したくないとパクパク口を閉じてるぞ」
 秘所の状態を克明に指摘され、初めて入れたときの痛みと、その抽送による滲み出した快感を思い出してアカネは身体を震わせた。壁の向こうの男達は鍵などなかったかのように、次々部屋に入り、ベッドの回りの近い場所から彼女を強い視線でなぶるように見つめつづける。
 その視線に、どくどくと放出された精液が溢れ出、内側が激しく蠢いている。
「上に跨がれ。早くしろ」
 観客にせかされ、アカネは男の顔に背中を・・・形のいい白い尻を向け、彼の身体を跨ぎ、ゆっくりと花弁を手で開き腰を静めようとした。先ほど突き破られた痕跡を残す血が、指に滲み出る。
 「もっと開いて奥の奥まで広げてみせろ」
 足も、あそこの奥までも、開け。
 指示に従いアカネは人差し指と中指でヌルヌルになっている花弁と、その上に突き出したクリトリスを片膝を立てて客へと見せる。熱い視線がそこへと集中し、男達が唾を飲む音や荒い息が聞こえ、彼女の中からトロリとさらなる蜜と混ざり合った精液が溢れ出す。見られる気持ちよさに陶酔していた。
  中が熱い・・・・アカネは快楽に体を揺する。
  沢山の観客の視線に快楽を感じ、彼女は粟立つように身体を振るわせた。トロリトロリと愛液が滴り落ち、男の身体へと雫が垂れ落ちる。男根に糸を引いて愛液が垂れ落ちる。これを・・・入れる。内部をかき混ぜ、押しつぶし、そして抜けないギリギリまで引き抜き、また奥まで突く・・・きもちよかった・・・アカネは思い出しうっとりと瞳を閉じた。
「どうだ、入れたいか?」
  アカネの腰が沈まないように、束縛していた男が耳元で言った。
「もう欲しくて欲しくて仕方が無いんだろ?」
  別の男がアカネの乳首を摘んで引っ張りながら言った。程よい形の胸が引っ張られ背筋が反り、アカネの腰がゆらゆら揺れる。
「ははっ、体は正直だ。さっきまで処女だったとは思えない!!」
 様々な卑猥な言葉が浴びせられ、アカネはますます合い液を垂らした。 「咥え込んだら離さないしな!」罵倒さえ、焦れた彼女には甘美のエッセンスとなった。
「い・・・入れさせて」
 顔を上げ、周囲の視線をぐるりと見渡して懇願する。何かで塞いで突き上げてもらわなければ、どんどん卑猥な涎が溢れてきてしまう。既に精液は全て重力で流れ落ちた。蓋ををしなければ。
 懇願はじんわりと痺れるような快楽をアカネにもたらす。
 潤んだ赤い瞳で懇願された男達もまた、ますます興奮を高める。それでも腰の束縛は外れない。こんなに近くに、アカネの体の真下にすっぽりと収まる入れるべき快楽を運ぶモノがあるのに。
「もっと言葉でお願いしてごらんなさい?」
 別の男がアカネに言った。
「アカネに・・・これをアカネの中に入れて」
「このペニスを、どう入れて欲しいんだい?」
「ゆ、ゆっくり、ううん激しく中を突いてかき混ぜて何度も何度も・・・あぁ・・・早く、はやくっ!」
 アカネはすすり泣いた。
「駄目だ、それだけじゃどうして欲しいか私達に伝わらないよ。もっときちんと言わないとねぇ」
「もう我慢できないです、奥まで突いて欲しいんです、だってそうしないと中からいっぱいヌルヌルしたものが出てきちゃう」
 言いつづける間も男達の指はアカネに様々に性的刺激を与えつづけた。
 なんと言えば入れさせてもらえるのか、アカネは必死に考えていた。頭の中は固くて太いペニスが突き刺された時の間隔が蘇るばかりで、益々たまらなくなってゆく。
「ねぇ・・・ねぇ、なんて言えば・・・あぁ・・・入れさせてくれますか。ぺ、ペニス欲しい!!」
 早く早く欲しいのに!!!
 アカネの自由な指がクリトリスを弾き、花弁を捲り上げて中へと入れられる。彼女の細い指では、望むような興奮が得られず、二本居れ、かき混ぜるものの涎を撒き散らすだけだった。
「欲しいよぅ、アレがほしいぃぃ、そのおっきーの頂戴よぅぅぅ!!」
 激しく指を抽送しつつ、アカネが首を振って子供が駄々をこねるように叫んだ瞬間、何人もの腕で彼女の腕が掴んで引き抜かれ、腰を抑えていた男の腕が彼女を押し付けるように力が入る。
「はっ・・・はぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 突然の挿入に彼女は全身で弾けた。体には浴びるほどの男達の精液がかけられる。
「あつぃ、あっついぃぃぃぃ!」

 

「血か・・・結構出血したな。止血薬を飲むか? 客は帰ったぞ、それから・・・ああ、これは報酬だ、受け取れ。別に恥じる事は無いぞ。薬を塗られた女はみんなあんな風になっちまうからな」
「そ、それはどうも」
「さっさと忘れろ。もらうもの貰っちまえば、こっちのものだ。下着は、俺が切っちまったから使えねぇな・・・悪かった」
男の手がアカネの頭をくしゃりと撫でる。
思い出してアカネは真っ赤になり、男から視線を逸らした。最初に見て思った通り、かなり整った顔の男。白いシーツに広がる薄赤い染みを目にし、アカネが着て来ていたローブと麻袋に入った金と薬を渡される。早く服を着ろと目で促された。
3回も観客の要望に応えて性交した後だ。それでも目の前の男を見ると、ズボンの下の股間は生地を持ち上げて主張している。
アカネの脳裏を再び甘美な空気が流れ出し、彼女は慌てて頭からその思いを消し去る。
「・・・止血剤は要らないです、自分で治癒できますから・・・」
あんな痴態を晒してしまったことを恥じるように、薬を付き返し手早くローブに身を包み、アカネは布団の上で印を結び謳うように詠唱を始めた。
 小さな呟きに混じってオレンジの光が舞い上がり飛び散る。燐粉のように、小さな光は風も無いのに部屋中に舞い散り、霧散した光の粒は彼女の腹部へと集結して吸い込まれ、アカネの全身が一瞬だけほのかに輝いた。
  呆然と、男はアカネのその姿をポカンと開けた口のままで見ていた。 「おい!?」
 驚くような力強さで肩が捕まれた。
「お前、今の魔法はなんだ!?」
「何だも何も・・・傷の回復の魔法です。あんな・・・大きな物が出入りしたので、裂けちゃいましたから」
恥じらいを見せつつ、しかし強い意志で赤い瞳は男を見返す。
「なんでそんな魔法使えるんだ!?」
「プリーストならば誰でも使えます」
「プリーストって誰がだ!?」  女は胸を張って答えた。
「私が」
 男は左手で顔を覆い天を仰いだ。
「おまえ、プリーストの姦淫はご法度だぞ!?そのぐらい知ってるだろーが!?今日の観客の中にだってプリーストは居たぞ。あいつらは、どんなに興奮したって姦淫はしない。うっかりそんな気分になったら俺が醒ます。」
「そうですか」
 興味無さげにアカネは服装を正す。
「女を抱くだけじゃなくて、制止に入る、そのために俺は呼ばれてる。プリーストがどういう理屈で回復の能力を持ってるのか知らないが、それだけ姦淫は罪が重い、だろう?」
「・・・お金が欲しかったんです」
 身支度を進め、アカネは立ち上がった。傷は癒えていた。さき程までの痛みは、もうどこにも感じることは無い。あんな姿を複数の人間の前で晒した、その傷は癒えない・・・この男の顔をみたら、あの快感までが蘇ってアカネは苦い気分になった。
「お金はいただきます、では」
 二度と会う事はないでしょう、と言い残してアカネは部屋を後にした。
「ありえねぇだろうが、おいっ」
 部屋に1人残されたスカウトは、その閉ざされた扉に向かって吐き捨てた。

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