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ボイスチャット〜強敵・前編〜

 ユタカは慌てて騎乗位、いや対面座位で腰を振る彼女の口を塞ぐ。彼女の肩越しに、二台並べて設置されたパソコン、見慣れないベニヤ板の壁。上着をかけたハンガーが入り口のドアに吊るされる。
 ドアとはいえ横開きにスライドする板の上下を曇ったアクリルパネルで覆った軽量単素な代物。空間全てを密室にするドアではなく、軽い目隠し。背が高ければ、蛍光灯の吊るされた廊下から簡単に中の様子を伺え、立ち止り屈んで中を覗けば足だけでなく狭い室内は全てが見渡せる。
 そんなネットカフェの高性能PCを置いたカップルルームで、ユタカとロイはセックスをしている。
「ひゅ・・・ふゅ」
 鎖骨を隠す艶のある長く真っ直ぐな髪が腰の動きとシンクロし、リズムを彼女の白い肌で刻む。子犬が鳴くような喘ぎがユタカの押さえた唇の下から漏れる。腰の上で自ら抽送を指揮している白い体は一時も休むことなく男根を体内で嬲る。
「ロイ、激しい」
「んっ!」
 初めて彼女の口から人らしい喘ぎが紡がれる。なんでこんな場所で、この人とセックスしてるのか・・・・ユタカは改めて気を紛らわすように考えた。
 彼女の腰を引き寄せ、口を塞いだ手の平を離し、両手で華奢な腰を掴んで動きを封じた。
「そんなに がっつかないで」
 押さえつけても尚反発し、円を描いていた腰がぴたっと止まる。強く閉じられた、長い睫に縁取られた瞳が開く。黒い切れ長の吸い込まれそうな瞳がじっとユタカを見つめた。
「がっついてない」
 ロイはユタカより5つ上の29歳。
 ネットカフェに一度入ってみたいが勇気がない、との彼女を「二人オフ会の会場にしよう」と冗談で言った所、ロイは二つ返事で誘いに乗ってきた。二人で会う前に、二人だけの打ち合わせと称して始めたボイスチャットは、何時の間にやらテレフォンセックスへと変化し、「会ったらエッチしようか」と先に言ったのは彼女の方。
「男に飢えてるみたいな言い方やめて」
 聞きなれた張りのある、それでいて繊細で強い声が薄い唇から滑り落ちた。挑戦的な細く長い眉。見慣れない、華奢な体と黒く長い髪。切れ長の瞳、削り出したような尖った顎。ヒールの靴を履けば、ユタカと遜色ない身長。ロイは会う前に思い描いていたユタカの想像通り。
 一部を除き。
「いや、そゆ意味じゃなくて・・・・・あんまり腰振ると」
 ユタカはロイの首を掴んで引き寄せ、彼女の小ぶりな耳に顔を寄せた。
「振動で周りの部屋にバレる」
 きゅ、と内部が締め付けられる。瞳が伏せられ、だらしなく開いた唇から舌が覗く。今の締め付けが、彼女自身を興奮させた証でもある。
「ごめん」
 戦闘中プルをミスした時と同じイントネーションで、目の前の女が謝る。ロイは、ゲームで存在するダークエルフのスカウト・ロイではない。
 ダークエルフの浅黒い肌は、白く滑らかなそれに変わり、エルフ特有の尖った耳は人間の耳に。唯一きつく吊り上った切れ長の黒い瞳が僅かに面影を残す。けれど、ゲームの中のロイはどこにも居ない。目の前でユタカのペニスを深々と差し込んでいるのは、声しか記憶にない、始めて会った一人の年上の女性。
「Yutaka?」
「え?」
 何かを問いかけようとしたロイは、口を閉じた。
 奇妙な沈黙。
「俺の方こそ悪かった、あんな言い方して。ロイはこういう場所初めてだったの忘れてた」
 「年上の私には」あんな言い方が失礼だ、と修飾文がつくのだろうか・・・・ロイは考えた。二人の年齢差は、ユタカが抱いている以上に大きな距離を持つ。ユタカに対して起こしたアクション全てが、普段の自分からは想像も不可能な行動の連続だ。
 ネットカフェにも一人で入れない、と指摘された気がしてロイの自尊心は傷ついた。
 ここに来たいというのはYutakaに会う口実に過ぎない。だが、そう反論すれば、ロイがYutakaに会いたい理由を打ち明けるきっかになる。
 破れたストッキングの伝線が、膝上の黒いスカートでは隠し切れない足首の方へ伸びる。今履いているストッキングはもう使えない。帰りにコンビにで替わりを買おう、ロイはユタカを挿入したまま非凡な日常を思い浮かべた。
「ゆっくり動けばいいかな」
 恐る恐るロイの腰が引き上げられる。ちゅるちゅると愛液が肉棒に絡みつく音が、開放的で静かなネットカフェの個室に響く。ユタカの視線の先、レースで編んだ白いコサージュが揺れる。目の前で鎖骨が光り、服の下小ぶりな胸が震えた。
 視線の先に気付いて、ロイは腕を心臓の上でクロスさせた。
「む、胸は勘弁」
 耳を澄まさなければ聞こえないほど小さな声。
「うん。分かった」
 ズズッ、きつく握り締める内部にソファーから軽く腰を浮かせ、彼女の奥まで挿入した。
「ひぃゃっ」
 強く強く挿入を拒むかのように肉壁がユタカをシゴキ上げた。ロイは突然の反撃にユタカの首にしがみつき、肩口に顔を埋め唇を噛んだ。ユタカのうなじに熱い吐息が吹き付けられ、体と体が服越しに密着する。
「ひぁ」
 ロイの中は絶え間なくユタカを包み込み強弱をつけて波打つ。背中越しにユタカの体に跨るロイの、破れたストッキングから覗く白い太腿が眩しい。ふんわりしたボックスプリーツのスカートはヒダを作って腰に布を重ね、下半身を剥き出しにした。代わりに、破れたストッキングと、透ける素材のスカートの裏地が、むっちりした太腿を一層情緒的に見せる。
 きゅうきゅうと下半身だけでなく、上半身にしがみついた腕までも絞まる。
「おいっ、ロイ!」
「んっ?」
 キョトンとした顔が上がり腕がほどけた。下半身は尚もユタカから精を搾り出す動きを繰り返している。吸い付き、しごき上げる淫乱な動きを反復する蜜壷と対照的に、頬は真っ赤に染まり何も知らないような純粋な表情で、切れ長の瞳はうるうると欲情しきった涙を浮かべる。
「その・・・・」
 ロイの中は温かく柔らかく、それでいてきつく、最高に気持ちがいい。それ以上にロイ本人の恥らう姿が悩ましく。
「流石にここで出すまでヤルのは、考えものだ・・・・」
「た、確かに」
 きつい膣内がさらにきゅうきゅうとユカタを締める。口での同意とは逆に、ロイの体はユタカを手放すまいとさらに強く締め上げ、背筋をゾクゾクする快感が走る。強がりで意地っ張りな彼女。
「腰を浮かせてくれないと、抜けないよ」
 耳元で囁く。ロイはぎこちなく、腰を浮かせ、吸い付く花弁から蜜をしたたらせながら肉棒をゆっくり開放していく。その間も休まる事なくヒダはユタカを一層強く吸い上げて手離す事を拒否している。
「うん、ゆっくり。抜く時の音に気をつけて」
 眉をしかめて結合部分に見入るロイの耳へと、愛撫を加える。
「んんっ」
 ビクッと体が跳ねた。頭の出っ張りまで引き出されていた肉棒が、また彼女の中に逆戻りし埋まった。その瞬間歓喜に震え肉ヒダが群がり、濡れすぎな股間はジュプジュプと大きな音と共に泡立つ。
「ふ・・・ぁ」
「おいおい、また入ったよ」
 軽く腰を前後に円を描いて揺すり、内部の深さを棒でかき混ぜるように確認する。
「あぁ・・・だめ Yutaka、だめだってっ!!!」
 再び強くユタカの首に抱きついた。涼しい顔でユタカは中を突き上げる。ぐちゅぐちゅと汗と愛液が混じる音。たまらずユタカの肩口に頭を預けたまま、彼の上着を噛んで声を堪える。どれだけ声を堪えていようと、下から響く淫猥な音は消せない。
 聞こえる・・・他の人に聞かれる・・・このいやらしい音を。隣の部屋では、マウスをクリックする音。マウスでさえ、こんなに響くのだ。ロイの体から出る蜜を捏ね回す音は、どれだけの部屋に響いているのだろうか。
 強く瞳を閉じてユタカに抱きつく。彼が中を前後に突くたびに、一番弱い場所が押される。そこを肉棒でぎゅっと押されると、つま先まで快感で痺れたまらず愛液は溢れ出し、ますます卑猥な音が響く。
「ひぁ・・・やめっ、そこはやめっっ」
 上着に歯を立てたまま、言葉にならない言葉でユタカを制す。ソファーはぎしぎしときしみ、前の部屋も後ろの部屋もロイの様子を伺うかのように静まり返り、ロイの恥ずかしい穴から溢れた蜜は太腿まで広がる。
「それじゃ、抜くね」
「ひっ」
 くちゅるっ、部屋中に響いたのではないかとロイが心配するほど大きな音を立てて、ユタカのパンパンに膨らんだ肉棒が出た。慌ててロイは視線を反らし、彼の膝の上から飛び降りる。ぬるぬるした愛液は、ストッキングを伝い膝までも垂れてくる。
 体はじんじんと疼く。ロイは白い鞄を勢い良く掴み、靴のヒール音を響かせて廊下に飛び出す。
「トイレ」

拭いても拭いても溢れ出る愛液に諦め、ロイは部屋へ戻った。ユタカはタバコ片手にギルドのホームページを見ていた。
 ユタカはこんな顔なのだ、改めてロイは彼の顔を見つめる。普段の毅然とした、それでいて懐の広いギルドリーダーの顔と、目の前に居る彼の姿に何ら接点は無い。いつものユタカに会いたくなった。いや、ユタカとオフしなければよかったのか。ロイの回想はユタカの言葉で遮られる。
「今晩は、マーに再挑戦らしい。どうした?」
「そろそろ時間だし、レイドに間に合うように帰ろっか」
 入り口に立ち、ロイは鞄の中から財布を取り出す。
「じゃ、出よう」
 タバコを消す。

 

 帰るつもりが、ユタカの家を見たいと口が滑った。先ほどいく寸前で抜かれた体が我侭を言わせた。ユタカは「じゃ、見に来る?」と簡単にロイを連れてきた。
 床にぺたりと座り込んで、部屋を見渡す。知らない人の匂い。目を閉じ声を聞かなければ、Yutakaはユタカと感じさせてはくれない。昨日まで、私のすぐ隣で指示を出していた頼りがいあるリーダーが、今はどこか遠くの存在にロイには思えた。
 そして、知らない人の部屋に無理やり押しかけた緊張感。
「はい、コーヒー」
「ありがとう」
 マグカップを受け取る。ユタカはPCを起動させた。BIOS画面が表示され、Windowsの起動画面が現れる。
「ロイこっちおいで。シャワー浴びるといい」
 手を引かれるままに、ロイはバスルームへと押しやられた。
 彼女のシャワーの音を耳にして、ユタカはPCの壁紙を入れ替える。女性を家に連れてくるなんて、これっぽっちも想像していなかった。肉親以外の女性を、この部屋に上げたのは初めてだった。部屋に物を置かない主義でよかった。少なくとも、汚い部屋ではない。
「やばやば」
 壁紙を無難な物に入れ替え、他に見られてまずいものはないか見渡す。ドラマだと「案外綺麗にしてるのね」なんて女性は必ず言うが、ロイはそんな無駄な世間話を口にしない。
 ギルドホームページの掲示板に「Yutakaです。本日参加不可、ごめんね。がんばってください」と書き込んでいる間に、バスルームの扉が開いた。ぶっきらぼうで美人な彼女はシャワーも早業だ。
「バスタオル、そこに置いたよ」
「見て分かった」
 ロイはユタカが想像した以上に、不器用で無口だ。彼女が何かを熱く語るのは、ゲームの中の事。戦術であったり、装備であったり、来年にも予定されてる拡張。
 見上げると、ストッキングを脱いだロイが来た時と同じ服を着て立っていた。身長の高い華奢な体。レースのコサージュ。真っ直ぐな黒い髪と瞳。ロイはどんな女性だろう、とギルドで話題になったことがあった。誰一人、ロイがこんなタイプだとは、想像しなかったに違いない。
「ロイ、レイド出なよ。俺のPCとヘッドセット貸すから」
 彼女に向けて椅子を引き、ユタカはベッドに腰掛けた。
「ユタカが居なきゃ、誰がリーダーに」
「俺のかわりはいくらでも居るよ」
 立ち上がり椅子へと深く腰掛けると、ロイの腰を掴んで引き寄せ、膝の上に座らせた。
「!!」
「今日ロイは俺の膝の上を椅子代わりにレイドに出る、以上」
 頬を赤くしたロイは、そしたる抵抗もなく大人しく画面へと姿勢を正し、マウスを使い勝手のいい位置まで引き寄せた。マーと戦う事と、リーダー不在のレイドを秤にかけるなら、前者を取る。
「二度目の挑戦だし、いいデータ取れる事を期待してる」
 ユタカの言葉にロイの背筋が伸びる。
「まかせろ」
 小さく薄い唇。強気な瞳の色を浮かべ、そう呟いた。
「はい、ヘッドセット。ボイスチャットはスピーカー出力にするね。俺も観戦させてもらう」
 ユタカは掌に隠れそうなBluetoothワイヤレスヘッドセットをロイの耳に装着した。続いて脇から伸びた形のよい長い手がキーボードを叩き、ゲームのカスタム画面を開く。イヤホンとスピーカーの両方から音声を出力に切り替えた。
「スピーカーの音、マイクで拾わない?」
「わりと大きめの声しか拾わない。それ装着して歩き回っても、みんなに何も言われた事は無いよ」

「テス」

 聞きなれた声がスピーカーから発せられ、ロイはビクッと体を竦めた。心得たように横からユタカが腕を腰に回す。膝の上に座る、というよりは跨った体勢に今更羞恥心が湧き上がった。
「ほら、挨拶しないと」
 やんわりとユタカの手が服の上から腰に触れる。さっきまで挿入されていた場所から、また密が溢れ出し下着を汚す。乾ききってない白いパンツは、トイレに入った時すでに大きな染みになり広がっていた。股の間に入り込んだユタカのジーンズを履いた足が、固い生地が、割れ目を刺激しているような気がする・・・だが、気のせいだ。
「ばんわー」 
 ロイはマイクの位置を確認した。
「もちょい大きい声じゃないと拾わない。俺の声にあわせて設定してあるから。変えようか?」
「このままでいい。・・・ばんわ」
 ロイは腹に力をこめた。元々、小声でぽつぽつ喋るタイプなのだ。逆にユタカの喋りはハキハキして心地よい。勝って知ったる人のPC、ロイは慣れた手つきでサーバーに保存されたカスタムUIと自分専用のキー設定を呼び出す。

「ばんわっす」

 準備を始めている仲間の一人から、ボイスチャットの返事が返る。
「今日はボイチャ無さげ」
「雑音も小声も拾わないから、ヘッドセットはつけたままにしておけば。人のキーボードでチャット打つのは大変だろ」
 チラッと見るとユタカは喋りながらメールを打っていた。ロイは視界から彼の姿を追放し、マウスを握る。
 今日のレイドに向かうマーの神殿は、光と勇気の女神・マーの住む神殿。歴史によればマーは自身の姿を象る事を拒否し、姿を摸することで存在を布教しようとした神・サザーと対立し、戦に敗れ、高貴なる魂はサザーの手により4つに分け封印された。サザーに分断され散り散りになったマーの魂の破片を集める事で、マーの神殿への扉は開かれた。
「20人か、いけそう」
「楽しみだね」
 ユタカの声は、いつもレイドで聞くあの声勇気を奮い立たせるような声ではなかった。ロイはがっかりした。会うまでは、こんなはずじゃなく、期待が大きすぎたのだろうか。ゲームの中のユタカは輝いていた。目の前の自分より、携帯メールへ意識を奪われた現実にショックを受けた。 

バンノ say :「今晩Yutaka来ないので、代わりにレイドリーダー誰か頼みます」
 「バンさんでいいじゃん」
 「ロイが今来たよ」
ロイ say :「プルしながらリーダーは無理」
 「じゃ、誰がやるー?」

   

 ユタカの指が背骨をしたから上へとなで上げた。さっきまでネットカフェで繋がっていた筈の中なのに、他人に触れられるような感触。
「たまにはリーダーやらない?」
 ロイは即答した。
「いやだ」
 背中越しにユタカの温かさを感じる。指はふいとどこか別の場所に向かってしまった。携帯だろうか。
「じゃ、安住に振ってやって」
「なんで私が・・・」
「バンノ、安住を恐がってるし」
 振り返ると目が合った。その瞳は、楽しげに微笑んでいる。ロイは渋々、マイクに触れた。
「安住居る?」  

「居る」

「今日のリーダーよろ」
 ポンポンと頭を撫でられる。

「・・・・了解、バンノ グループ分けやってくれ。今日の集合は15分後、マーの神殿前、ボイスチャット使える人はオンで。」

 ブツリとマイクの音は途切れた。ロイはユタカを振り返る。安住で大丈夫なのかと、目が訴えていた。
「平気、平気」
 ニコリとユタカは笑った。振り返ったロイは、殺伐としたゲームのロイから素に返る。今のユタカは良く知っているYutakaだ、このユタカもYutakaの表情をするのだ。途切れていた線が通電するかのようにカッと頬が赤くなるのを慌ててモニタへと向き直り、平静を装う。
「どした?」
「ううん」
「夕飯どうする? ウチの冷蔵庫、納豆しかないから・・・コンビニで何か買ってこようか?」
 言われてみれば夕飯がまだ。ロイはかなり空腹だ。
「納豆好きだよ」
「納豆とご飯って訳には・・・・」
「それでいい」
 ロイは立ち上がった。目でさっさと食事の支度をしろ、と訴えられ、ユタカは渋々台所へと向かった。膝の上に彼女を乗せ密着した状態を味わうのは、ネットカフェで彼女を膝の上に乗せて抱いた時の感触を思い出させる。
「今なら知ってる場所を進む間に食べ終わる」
 戦いの場に身を置いたロイは、全ての優先がゲームになってしまった。例え、人の家であっても。
 バンノはロイと安住を同じグループへと振り分けた。グループごとにメンバーの名前が発表になるのを目で追い、先日一度訪れた神殿内部の地図と敵の配置図・トラップを脳裏に描き出す。神殿は入り口を南に、頭上から見れば巨大な十字架の形をしている事は薄々理解していた。
 ユタカの食器を置く音や冷蔵庫が開く音が聞こえ、ここが慣れた我が家ではないのだとネットから現実に帰る。その時、グループへの加入Windowが現れた。

ロイ say「よろしく」
安住 say :「よろ。ボイスはレイドに使う、何か用があればチャットで」
バンノ say :「ほいほい了解。よろしくね〜。」
ロイ say :「敵を引っ張ってる間は無駄話の余裕ないよ」
バンノ say :「分かってますって」

 クスクス。耳元で笑い声。振り返らなくてもロイは部屋にユタカしか居ない事を知っている。
「何か可笑しい?」
「バンノはやりにくそうだなぁと思って」
「へぇ・・・そうなの」
 心ここにあらず、といった返事。画面に目をやると、既にレイドはマーの神殿を進行していた。遅くにログインしてきたメンバーも合流できるよう、進行組みと入り口残留組の二手に分けて進む方針だ。残留組の大半は、まだ夕飯を取ってないメンバーだ。
「このゾーンどう思う?」
 不意にロイは台所に向かったユタカに切り返した。
「どうって?」
 納豆を混ぜるユタカにロイは呟いた。
「マーはどこに居るのかな」
「会えば分かるさ」
「そこを最短距離で導くのが、私の役目なんだが」
 前回、十字の道まで辿り着きロイは直進する道を選んだ。結果的には、十字架の頭・最北端は豪華絢爛な巨大広間だが、マーは居なかった。
「どこかにトリガーがあるとは思う。その仕掛けを見つけた者が勝者だな。これは予想だけど」
 突入から15分もかかって十字路に辿り着いたのを見て、一瞬だけ真顔に戻りユタカは告げる。
「もしかしたら居るのはマーではない可能性もある」
「女神マーは神・サザーによって倒されたから?」
「うん。サザーがここに住んでいたとしても、不思議じゃない」
「そうか」
 幾分落胆を込めてロイは俯く。リーダー不在の不安なレイドの中で、彼の一言がロイに安堵と平穏と、少しの落胆を齎す。導くのが私だ、と大見得切ってもただ引っ張っているだけなのだとロイは改めて思った。

 

ロイ say :「十字路の三択、どっちに進む?」
バンノ say :「この間がハズレだったから、今日は右か左?」
安住 say :「ロイに任せた」

 折りたたみ椅子を広げてユタカはロイの隣に陣取る。
「はい。納豆とご飯」
 一口ぶんの納豆が箸の先端に乗せられて、口元へと寄せられる。
「え・・・・・」
「レイドしながら箸を握るのは、腕が四本なければ無理だな」
 さらに唇に触れる程側まで、箸が近付けられる。面白そうに笑う彼の表情に、ロイは戸惑いを見せつつ唇を開き、白い八重歯を覗かせる。
「一口でどうぞ」
 ユタカの言葉に箸の先端がロイの口の中へと吸い込まれる。閉じられた唇の中で箸が吸われ、食べ物は口の中へと挿入される。ズッと箸を唇から引きずり出すと、糸が引かれ長く伸びた。
「うわっエロい」
 ヘッドセットを装着して無い側の耳元で囁かれ、ロイの集中が切れ一歩の動きの遅さで、引いていた敵に回りこまれた。
「・・・邪魔」
 納豆を噛み砕きながら画面に集中するように念じ、身構える。どちらへ避けて、安住たちの待つ場所まで複数の敵を持って行くべきか、咄嗟に手が動かない。
 あぁ、もうHPがガリガリ削られるじゃないか!
 ロイは睨むように隣の男を見る。

ロイ「ごめん、囲まれたプッシュしてきて」
安住「了解、ロイの場所まで前進」
「らじゃー」

 正面の敵を鞭で弾き飛ばし、退路を切り開き仲間の姿を見つける。納豆を咀嚼して飲み込み、唇の周りを無意識に舌でペロリと舐めると、再び箸が差し出された。今度は何も言わず口を開いて、食べる。意識するから、ユタカが調子に乗るのだ。ロイは自分に言い聞かせた。
「もう平常心か」
 仲間と合流する。ほっと息をついてユタカを見ると、その視線に気付き彼は手にもった箸をペロリと舐める。
「あのねぇ」
 苛立ち気味のロイの口にご飯と納豆が詰め込まれる。
「そんな大きい声出すと、ボイスチャットに流れるよ」

安住 say「ロイ?」
バンノ say「ロイ、何か怒ってる?」

 スピーカーから確かに、ロイの声が流れてきていた。慌ててキーボードを握って「ごめん、リアルの方」と打ち込む。
「ほらね」
 嬉しそうにユタカはご飯を口に入れ、画面の右上に表示されたマップをチラリと見て話を続ける。
「十字路は右(東)に進んだか」
「ここがダメなら十字路で入り口の待機組と合流して、今度は左の西の通路を行く予定。本当に十字架の形なら、南北に走る距離と十字路の位置からしても縦横が同じ長さだね」
 普段よく見る縦軸の長い十字ではなく、漢数字の十のように上下左右の長さが対照なギリシャ十字。大きな天井や大きな通路は、全貌を用意には晒さない。
 前回進んだ北の道は最後に回す、それがロイの選択だ。西の通路の行き止まり、大広間の扉が目に入った。北の通路で見たものと、瓜二つな造り。
 ふむ・・・・とユタカは考え込む。
「合流組みが増えたら二班に分けて、全員で固めず入り口にも一グループ残すように安住に伝えて」
「それじゃ戦力割きすぎ。進むのに時間がかかる」
「今日はあくまで二度目の挑戦だから、マーがどこに出現するかしっかり押さえるのが第一目標ね。それに最終的に東西南北に4分割しても、各先端の広間で待機するには耐えられる戦力だと思うよ。」
「確かにそうだけど」
「神様の神殿を守る兵が、苦戦するにしろ一グループで進める程度の強さだなんて、おかしい。敵をその程度の戦力にした理由があるはず」
 言っている事は尤もだけれど・・・・その戦術ではマーがどこに出現しても、合流する前にマーと出会えたグループは全滅してしまう、とロイは口に出せずに居た。出る場所が分かれば、次はそこに兵を裂く? 二度も同じ場所に出現するのだろうか? 答えは限りなくノーに近い。
 しかも、その戦術をロイが伝えても、安住は承諾しないだろう。
「分かった、言うだけ言ってみる」
 落胆を込めてロイは呟いた。だが、ロイが伝えるより先に安住から指示が出た。

 

安住「グループCは東の広間に残れ」
「ちょっとまってよ安住さん」
「残るって何でだよ」
「この広間は、もう何も無いと思うな」

 口々にCグループから反対の声があがる。みんなマーに会いたいのはヤマヤマなのだ。自分達だけ置きざりにされたのではたまらない。ロイも口を開いた。
「今日はマーの出現場所を押さえる事が第一でしょ」
 マイクに乗って声がスピーカーから流れた。これで周囲が納得するとは思えなかったが。指揮官の人望は大切だとつくづく感じる。同じ言葉でも、それを伝える人物が代われば、人はあっさりと掌を翻す。

安住「ロイの言う通りだ。最終的には東西南北の4箇所に1グループ+αずつ設置する予定。全滅しそうなグループだけ俺に申告を」

 むちゃくちゃだ。それでは、申告したグループは仲間か自分のどちらかが弱くて他のグループには出来る事が出来ないと言う話になる。チラリとユタカを見た。彼は興味深そうに画面に見入っている。その間ですら、戦闘は絶え間なく行われ、Cグループを残し他のメンバーは来た道を引き返す方向で大移動している。無言の肯定だった。
「すっげ強引」
 一瞬だけ目を離した隙に、驚くほど真近に顔があった。最後のご飯と納豆を口に入れられ、折りたたみ椅子が片付いた。
 また、彼の膝の上に座るのだろうか。そう考えた途端、ロイは下着が湿り気を帯びている事に気が付く。私は何を期待してる!? いや、何も期待なんてしてはいない。そもそも、マイクだって付けたままだ。重要なレイドの最中にユタカが人の気を散らすはずがない。
「マーは、うちのサーバーでは一度も倒されてない?」
 背中に立つ気配を感じ、ロイは尋ねた。
「うん、まだだね」
 今日女神・マーを倒せば事実上初制覇となる。ネットゲームに置ける初と二番手では、内容は全く異なる。初は覆しようが無い称号だが、二番手は何らかの情報なり監視なり盗撮なりで初制覇ギルドの戦略を応用しただけという目で見られてしまうのだ。やはり、ここは譲れない部分だとロイは思った。
「じゃ俺は」
ロイの腰掛けたキャスターチェアーがユタカの腕で無理に押し下げられる。慌てて浅く腰掛け、キーボードやマウスとの間合いを取る。
 他に気を取られていても、ロイ達はしっかり前へと進んでいた。来た道を戻り、十字路に差し掛かる。ここで入り口で待機していたDグループと合流する予定だったが、Dが十字路の手前で苦戦しているのでそちらの敵を捌いていた。
「?」
「全然足らなかった食事の続きを」
「うん?」
 床に膝を突いたユタカが、椅子の下に体を入れ込みキャスターをロックし、ロイの膝の上に体を乗せる。
「なに?」
「ここにも一粒納豆があったからさ、それを食べようかと」
 椅子の前方に浅く腰掛けたままのロイの両足の間にユタカは体を割り込ませ、スカートへの中へと顔を突っ込んだ。ほのかな石鹸の香り。それとは別に、下着からはネットカフェで散々玩んだ愛液の匂いが鼻をつく。
 ユタカは両腕をロイの腰に回し固定すると、下着の上から股間を舐めた。塩味だ。
「や・・・」
 ロイの視線は泳いだ。慌てて足を閉じようと力を込めてみるが、既に入り込んだユタカの体を締め付けただけだった。
「糸引くまで混ぜないと」
 下着の脇から入り込んだ指がグルグルと蜜壷に円を描く。ロイはつま先をピンと立てて、快感に背筋を伸ばす。先ほどの危惧で濡れた体は、すんなりと指を受け入れてしまった。
 視線の先のモニタでは煌びやかな天井の高い宮殿の廊下、敵を挟んでDグループ・メンバーの姿が見える。何度かロイの肉壁を掻き混ぜて確認し、ユタカの指はヌチャリと音を立てて引き抜かれた。スカートの下、ロイの脳裏にはユタカの指に糸を引く愛液と快感に口を開く花弁が浮かぶ。
「ゆ・・・ユタカ、マイクのミュートキーは・・・」
 マイクが気になって思うように喋る事が出来ず、想像以上に切羽詰った気分でロイはまくし立てた。その間ですら、ユタカの責めは手を休めることなく下着を寄せ足繰りの部分を割れ目へと食い込ませる。はみだしたビラビラを唇で引く。ぷっくりと充血し、顔を出した突起を下着のゴムで押しつぶし、上から指でグリグリと刺激した。
「ん!!」
 慌てて閉じた唇からワントーン高いキーの悲鳴が漏れた。

 

「ロイ?」

 いぶかしむようなグループ・メンバーの声にロイの前進から汗が滴り落ち、体中の血液が駆け巡る。じりじりと、ユタカの思惑がロイを急くような気分にさせる。おしっこを我慢している子供のように、ロイの足は世話しなく地面を叩いた。
「なんでもなぁ・・・っ!!!」
 メンバーへ返事をする側から、さらに強くユタカの指が陰裂をしごき上げ、尖った部分を引っ掻くように何度も往復させる。下着が紐となってロイの股間を真っ二つに刺激し、その上を絶え間なく指が下着ごと亀裂へ押し込む。
「ゅ・・・ゆたかぁ」
 泣きそうな小声で、ロイは股間へと顔を寄せる男の名を呼ぶ。マウスを叩いていた指はすっかりマウスを握り締め震え、拳を作って耐えるしかなかった。

 

「ロイ?」

 再び、意識のどこかに追いやりそうになった、現実にネットによって繋がっている他人との接点を、他人の声によって呼び起こされる。
 みんなにこの声は聞こえている・・・・・。股間を嬲られて喘いでいる声が。どんないやらしい女だと思われるだろうか、そう考えるとロイは泣きそうになった。
「ゅたかぁ・・・お願い、マイクミュート・・・キーは、どれ?」
 鼻から抜ける声で哀願する。
 ザワついたみんなのマイク音が、スピーカーから流れる。こんな風に、ロイの声もみんなに送信されている。思っただけでロイの体は快感の悲鳴を上げた。
 目は、仲間から取り残され動かないロイのキャラクターを見る。ゲームの中の分身を動かさなければ。先導するのがロイの仕事なのだ。しかし、ロイの体も神経も下半身へと集中し、気を抜けば甘えた声がマイクを通し全員に伝わってしまう。それだけは、なんとしても避けなければ。
 ロイの額に再び汗が滲んだ。
「ミュートは」
 ぐちゃぐちゃに濡れた亀裂に顔を埋めたまま、親指で陰核を拇印を刻むように強く押し付けユタカは喋る。吐息も、唇の動きも、時々舐め上げてバイブレーションする舌も、ロイを精神的に一層追い詰めた。

 

安住 say「ロイ、きちんと仕事してくれ」
バンノ say「ロイ、具合でも悪いの?」

 画面を見る瞳がゆらゆらと定まらない視点で揺れる。安住が怒っている。動かなければ。みんながロイの不可解な行動を気にかけている。次第に解けていく体、唇が自然に開いて舌がゆるゆる歯列を撫でる。完全に出来上がった体を確認するようにユタカの舌は丁寧にロイの陰裂を下着ごと舐める。
 早くその下着を取り去り、もう一度指で内部を押し込んで摩擦して掻き混ぜて。みんなに聞かれ、侮蔑の視線で蔑まれる事を想像し、快感が走った。ロイは無意識に腰を突き出し、膝をゆるめた。
「いい子だ」
 誉められてトロリと愛液が漏れ出す感触。下着を押しのけんばかりにパクパクと下の口が入れるべきモノを催促して蠢く。
「みゅ、ミュート、どれぇ?」
 ミュートは?と回らない下で甘えた声が出た。指が、紐になったパンツを引っ掛け開いた。ユタカの吐く息が、下着で覆われていた部分にも吹きかけられ、ゾクゾクと体が反る。大きく、下着を押しのけ二本の指が割れ目の熟れ具合を確かめた。
「ふ・・・ふぁ」
 聞こえる・・・・みんなに聞こえてしまう。
 ロイの頭の中は、その事と気持ちよさでいっぱいで溢れそうだった。
 このいやらしい声を。真剣勝負の重要なゲーム中に、机の股下に男を挟み腰を突き出してクリトリスを肥大させ、膣から蜜を垂れ流し、マイクに向かって喘いでいるロイ。
「ぁう・・・・」
 限界が目前に迫っていた。ユタカの舌は執拗にロイの尖った肉芽を飽きることなく上下左右に舌で押しつぶしている。全身が我慢の限界を超えて震える。声が溢れて、もう堪えきれない!!気持ちいい。すごい。ロイの頭は卑猥な快感で溢れ返る。
 あぁ、だめユタカもうやめ、いっちゃうぅ・・・・・ロイは言葉にならない叫びを上げた。このはしたない声がみんなに流れてしまう。男に股間を舐められるロイの声がみんなに聞こえる。軽蔑の目で見られる。
「も・・・だめっっ!!」
 ユタカの舌がピタリと止まった。
「ぁ・・・やめちゃ、だめだ・・・」
 誘うように腰がさらに突き出され、ドロリと粘液も漏れる。ガクガクと力が定まらない下半身は、次の快楽に待ち焦がれている。もうあと一歩でいけるのだ。
「ミュート・キーはどれか聞かなくていいの?」
 一音一音区切るようにはっきりと告げられる言葉は、ロイの肉芽に甘い吐息を吹き付け、快感を呼び起こす。
「ミュート・・・・はぁ」
 椅子から浮き上がった腰が前後に触れる。目の前で亀裂は開閉を繰り返し、卑猥なおねだりにユタカの鼓動も跳ねる。
「ミュートはね、Insert キーだよ」
 はぁはぁ、と荒い息のロイが視点の定まらない瞳と震える指でインサート・キーに人差し指を押し付けた瞬間、ユタカの亀裂を撫でていた二本の指がドリルのように回転しながらロイの花弁を押しのけて挿入され、待ち望んだ刺激を与えた。
「あっ、あぁぁぁぁぁぁ!!!」
 ミュートできただろうか、できなかったかも知れない、この声快感に溺れた絶頂の声はインターネットの回線に乗って、一緒にゲームをしている全員に届く可能性。ロイの体は快楽に何度もビクビク震え、椅子の上で大きく跳ねた。何度も奥までグルグルと指がネジ入れられ、狭い内部が押し広げられる快感。
「ふぁ、いっ・・・・またっ!!いっ・・・・くぅぅ」
 聞かれたら・・・音が拾われていたら。ロイは絶頂と失禁するような背徳感の中、うつろな瞳で他のプレイヤーをモニタ越しに見つめ続けた。

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